レ点腫瘍学ノート

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がんゲノム医療中核拠点病院等の指定要件WGの資料を読む

がんゲノム

第4回がんゲノム医療中核拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループの資料を読む

厚生労働省のサイトに、2022年7月4日の第4回がんゲノム医療中核拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループの資料が公開されていました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26592.html

このタイプの資料は、がんゲノム医療中核拠点病院のがんゲノム医療担当者でも初めて見るようながんゲノム医療に関する最新情報が入っていたりするので非常に興味深いところです。さっそく見てみました。

資料1以外はすでに公開されていた情報が少なくないので今回は割愛します。資料1を見てみましょう。がんゲノム医療中核拠点病院等の指定要件についてというタイトルが付いています。

2022年7月現在、がんゲノム医療中核拠点病院12か所、がんゲノム医療拠点病院33か所、がんゲノム医療連携病院188箇所があります。その指定要件は定期的に少しずつ改訂されています。

がん遺伝子パネル検査の実施件数

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まず最初にあるのはがん遺伝子パネル検査の実施件数です。2019年6月に保険承認されましたがこのときにはまだ保険診療でのがん遺伝子パネル検査を実施する体制が整っていない病院が少なくありませんでした。ちょうど2019年7月に京都で開催された日本臨床腫瘍学会学術集会のテーマががんゲノム医療元年となっていましたが、今となってはかなり昔のことのようにも思えます。8月頃から順調に増え始めました。

また2021年8月からはFoundationOne Liquid CDxも加わっています。最近数ヶ月は、25%程度がFoundationOne Liquid CDx、70%くらいがFoundationOne CDx、残り5%程度がNCCオンコパネルのようです。全体として緩除増加傾向ですが、NCCオンコパネルは逆に少しずつ減ってきていますね…

エキスパートパネルの自院症例・他院症例割合

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エキスパートパネルで検討した症例の自院症例・他院症例の比率についても出されています。これは2020年9月から2021年8月までの症例数です。中核拠点病院は拠点病院に比べて他院症例が多いとなっていますが、これは下にぶら下がる連携病院の数が異なるのでこうなるのは当然のように思います。

全体的には中核拠点病院のほうがエキスパートパネルの検討症例が多い傾向がありますが、拠点病院でもメチャクチャ多いところもありますね。そこらの中核拠点病院よりも症例数の多い中部地方の1施設は、愛知県がんセンターでしょうか?

連携病院のがん遺伝子パネル検査実施件数

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同時期の連携病院のがん遺伝子パネル検査実施症例数も出ています。連携病院の中央値は30程度でしょうか。もっともこれは昨年8月までの1年間の実施数なので、その後はさらに増えているのではないかと思います。

ちなみに、がんゲノム医療連携病院の整備指針改定案では診療実績として「1年間にがん遺伝子パネル検査を10例程度実施していること」という項目が加えられるという案が出ています。年間10例というと月1例以下ですからハードルとしてはそれほど高くはありませんが、具体的な数値目標が記載されるとプレッシャーを感じる施設もあるかも知れませんね。中核拠点病院と拠点病院はがん遺伝子パネル検査の実施実績について具体的な数値目標は記載されず、「特に優れた実績を有する」「優れた実績を有する」と記載されるのみにとどまっています。

がん遺伝子パネル検査後の遺伝カウンセリングへの到達率

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がん遺伝子パネル検査後の遺伝カウンセリングへの到達率も掲載されていました。遺伝カウンセリングへの到達率は中核拠点病院と拠点病院で46〜47%、連携病院で52%程度です。ただし、T-onlyパネルを実施した後の患者の場合はがん遺伝子パネル検査のあとの遺伝カウンセリングへの到達率のみではなく、その遺伝カウンセリング外来で遺伝学的確定検査を実施した割合がどの程度あるのかも気になるところです。

T-onlyパネル自体は保険診療ですが、そのあとの遺伝学的確定検査は保険外診療になってしまうので、(シングルサイト検査が利用できる場合は比較的安価に収まるとは言え)ある程度の金銭的余裕がないと遺伝カウンセリングに行っても遺伝学的確定検査が受けられないというケースはしばしば目にします。

がん遺伝子パネル検査後の治療到達数

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がん遺伝子パネル検査後にエキスパートパネルで提示された治療薬を投与した症例の実績値も記載されていました。ただし、このグラフは実数ではなく比率で記載してくれないと、多いのか少ないのか判断できないですね。厚生労働省の中の人には、もうちょっとグラフの表記法を工夫して貰いたいところです。

傾向としてはどこも保険診療の割合が最多でその次が患者申出療養となっています。保険診療に関してはがん遺伝子パネル検査で推奨された保険診療なのか、がん遺伝子パネル検査で推奨された治療が有望なものでなかったので標準治療を継続する形での保険診療を行われたのか、混同されている可能性があるのでこれも本当に多いのかどうかなんとも判断が難しい。

いちおう、エキスパートパネルで提示された症例に限ったグラフを見てもやはり保険診療が多いようです。これってどういう症例が多いんでしょうね。昨年のデータですからTMBはまだ保険承認前ですし、NTRKやFGFR2がそれほどたくさん見つかるとは思えないので、コンパニオン検査的に推奨治療が見つかったのか、それともHRR関連遺伝子変異があったのでプラチナ系抗腫瘍薬を使っておけという程度のレベルのものなのか。

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そして企業治験は施設によってかなり差が分かれてしまっています。次のページに治験実績のグラフもあります。中核拠点病院でも治験に全くエントリーできていない施設もありますが、これはがんゲノム医療の出口戦略から考えるとあまり好ましくないですね。

実はこのタイプの厚生労働省の資料では個別の医療機関名は公開されず今回も中核拠点病院としか書かれていないのですが、患者申出療養の件数は別の厚生労働省の資料ですでに公開されているので、この施設がどこなのか少し見当が付いてしまうんですよね。患者申出療養の件数の多さから、少なくとも他の11施設より遅れて中核拠点病院に認定された静岡県立静岡がんセンターではありません。となると、がん遺伝子パネル検査が保険承認されたはじめから中核拠点病院に指定されていた医療機関であることには違いなく、それで治験0例となると改善を求められてもおかしくないかも知れません。

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しかし、勝ち組的なポジションにある病院(おそらく国立がん研究センター中央病院や国立がん研究センター東病院)でも企業治験はせいぜい10台、患者申出療養を加えても年間30症例に届かないのは、少し寂しいところです。がん遺伝子パネル検査に対して投入している人的資源・医療費はいずれもバカにならない規模のものですから、もう少し実績があってほしいところですが。

C-CATへの転帰入力の状況

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転帰の入力。これはどこの病院もサボりがちですが、とくに人的に余裕のないがんゲノム医療連携病院での転帰入力が遅れがちのようですね。みなさんがんばりましょう。

その他

その他には、がんゲノム医療中核拠点病院やがんゲノム医療拠点病院が従来は2年毎に指定の更新が必要だったのですが、がんゲノム医療連携病院に合わせて4年毎の更新に変更する案が出ているようです。これが実現すれば、次回の更新は2027年4月となる予定です。

ここに提示されたものはいずれもワーキンググループに提示された案の段階ですから、実際の検討は7月21日の会議とそれ以降に具体的に決められていくようです。

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更新日:2022-07-03 閲覧数:930 views.