レ点腫瘍学ノート

2020-12-16

BRCA以外のHRR遺伝子に対するオラパリブで感じたこと

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HRR遺伝子異常(HRD)を有する前立腺癌に対するPARP阻害剤オラパリブのPROfound試験がNEJMに載りました。この試験は前立腺癌を対象にしていますが、臓器の他にgBRCA変異を対象とした卵巣癌SOLO1試験、乳癌OlympiAD試験と違う点がいくつかあります。SOLO1試験やOlympiAD試験、そしてgBRCA膵癌に対するPOLO試験と比べたときに、この試験が大きく異なる特徴の一つはコホートAではBRCA1/2以外にATMも含まれていること、また体細胞系列のBRCA変異を含む点です。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2022485

BRCA1が少なくBRCA2が多い

遺伝子の分布の違いもあります。乳癌と卵巣癌ではBRCA1変異の寄与度が大きいのに対して前立腺癌はBRCA1の変異は少なくBRCA2がかなり多くなっています。BRCA1変異が13人しかいません(オラパリブ群8人、エンザルタミド/アビラテロン群5人)。もちろんBRCA1の症例数が少なくても他臓器腫瘍のデータからBRCA1異常に対するPARP阻害剤の有効性に疑問符が付くわけではないのですが、このBRCA1の少なさは印象的。なお前立腺癌のルカパリブ第2相試験(TRITON2試験)もBRCA1/2は13:102くらいでほとんどがBRCA2です。

ATM変異前立腺癌サブグループに対する治療成績はそれほどよくなさそう

HRDでも遺伝子によりかなり差があります。BRCA1/2のOS HRは0.42と0.69で流石だけど、ATMやCHEK2やCKD12は対称群とほぼ差がありません。エキパネで時々名を聞くPALB2、BARD1、RAD51Dは症例数が少なすぎて評価不可です(片群0〜1例しかない)。HRDとして一括りにするのは危険かもしれません。

実はBRCA1/2とATMをコホートAとしてまとめて解析しています(他のHRR遺伝子をコホートBとする)。コホートAのOS HR 0.69というすごい成績でBRCA1/2とATMに承認されるのは間違いなさそうですけど、ATMサブグループの成績は少し気になります。コホートA全体で見ると中央値は15.6→18.0月と伸びていますが、ATMサブグループのOS HR 95%CIは0.93(0.52-1.75)。BRCA2がコホートAを引き上げてるだけで、ATM変異前立腺癌に限ると別にオラパリブがさほど効いてるわけでもないような感じが否めません。

こういう抜群に効く群(BRCA)とほどほどの群(ATM)を抱き合わせのコホートにする手法は、肺癌KEYNOTE-042でPD-L1の>50群と>1群で共にポジティブだった時に、>1群の成績は内部の>50の症例が引っ張っただけで1〜49に限ると本当に有意かどうか釈然としない感じに似ているような気もします。臨床試験のルール的には文句なくポジティブですが、サイエンスとして見たときに果たしてATM異常サブグループに対して手放しにPARP阻害剤の有効性を信じてよいのかどうか…。

体細胞変異も含む

前立腺癌のPROfound試験はgermline BRCA変異のみならずsomatic BRCA変異も対象にしています。卵巣癌でgermline BRCAでなくてもプラチナ感受性があればオラパリブが適用されることの根拠となったStudy19試験と似て、オラパリブがgermline BRCA変異癌以外にも使われるようになる特例的なポジションになるでしょう。もっとも、高悪性度上皮性卵巣癌患者ではgBRCA変異の頻度は17.1%*1に対して白金製剤感受性卵巣癌はgBRCA変異が46%、sBRCAが8%とかなりBRCA変異陽性率が高くなっています*2。Study19試験ではBRCA1/2変異陽性が21〜23%、陰性が13〜16%ですがunknownが6割以上を占めていました。

somatic BRCA変異を対象に含めていると言えばRUCAPANC試験も該当しますが、今のところデータが少ないのでsomatic BRCA変異に対するPARP阻害剤がgermline BRCA変異と同様の有効性を示すかどうかはもう少しデータ集積を待たないとなんとも言えないと感じています。


*1 Alsop et al 2012
*2 Hennessy et al 2010, Yang et al 2011