レ点腫瘍学ノート

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医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー@JSMO2023

腫瘍内科 JSMO2023 学会

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毎年JSMO最終日恒例の医学生・研修医のための腫瘍内科セミナーに、医学生でも研修医でもないのに参加してきました。ファシリテーターはがん研有明腫瘍内科の高野利実先生。

今年は7年目の先輩の姿を見せる構成

毎年構成は少しずつことなっています。過去にはJSMOの理事になっていた先生のこれまでのキャリアコースを振り返って紹介したり、がんゲノム医療が普及し始めたとしにはがんゲノム医療の入門向け講座のようなことをやったり。今年は7年目の腫瘍内科の先輩とその指導医が、腫瘍内科を目指す医学生や研修医に語りかけるというコンセプトで行われました。

がん専門病院の腫瘍内科研修

トップバッターはがん研有明の7年目の先生。それまでに一般市中病院で一般内科の研修を積んで、日本内科学会のJ-OSLER症例は集め終わっており、ここからがん専門医(特にこの先生は乳腺腫瘍内科医を目指しておられるようです)としてのトレーニングを積みます。がん研有明の1年目は3ヶ月ごとに消化器・乳腺・呼吸器・血液の4大領域をローテーションします。いずれの期間もがん専門病院ならではのかなりの症例数。

ぼくはもうオジサンになっちゃったけど、ちょっと高野利実先生の下での腫瘍内科研修受けに行ってみたいわ

— レ点🧬💊💉 (@m0370) March 18, 2023

大学病院の腫瘍内科研修

次は東北大学の7年目の先生。大学病院で働くメリットは何でしょうか?初期研修のあとは社会人大学院として大学での研究にも参加しながら、腫瘍内科医としてのトレーニングも積まれています。

また、大学病院ではチーム医療が重視されます。医学生や研修医など下の世代への教育や指導も重要な役割です。さらに、いろんな専門性を持つ人が多く集まりますから、チーム力が高まります。例えば、放射線科や外科など他科と連携した治療計画を立てたり、臨床試験や学会発表などで共同作業をしたりすることができます。

じっさい、先生はBRAF変異大腸癌に対する治療の耐性機序などに関する研究を行い、博士号も取得されました。このように、大学病院ではがんゲノムや分子標的治療などの最新の知見を得ることができます。

市中病院の腫瘍内科研修

一般病院の腫瘍内科では、がん専門病院や大学病院とは異なる特徴があります。

まず、診断ついていない患者さんから最後まで関わることができます。診断告知や治療方針決定、化学療法や放射線治療、手術や分子標的治療などの専門的な治療だけでなく、合併症や感染対策、栄養管理やリハビリテーション、心理的支援や社会的支援、そして最後には緩和ケアや看取りまでを自分の施設で行えることが多いです。これは、がんという軸足を持ちながらも家族や社会的背景を含めた全人的ケアが行えるということです。

また、一般病院の腫瘍内科では、特定臓器だけでなく臓器横断的にさまざまな種類のがんに対応することが求められます。消化器癌にも乳癌にも肺癌にも関わることもありますし、婦人科や泌尿器科など他科と連携してカンファレンスを行うこともあります。また、BSC(ベスト・サポーティブ・ケア)患者のフォローも重要です。これらはすべて最新の知識や技術を身につける必要がありますし、チーム医療のスキルも必要です。

また、一般病院の腫瘍内科は、がん専門病院や大学病院と比べて、高齢者や合併症患者が多く、救急医療も避けられない状況です。そのため、総合的な内科力が求められます。社会的弱者への支援やがん以外の疾患の診断治療も含め、幅広い業務が期待されます。

一般病院の腫瘍内科の魅力は、腫瘍を通した総合診療的なアプローチが強いことです。がん患者の多様なニーズに対応しながら、幅広い医療サービスを提供できることがその大きな特長と言えるでしょう。

3人の姿を見て感じたこと

今回のプレゼンテーションでは、腫瘍内科の魅力を伝える役割を務めた先輩医師の素晴らしい姿が印象的でした。7年目の若手医師が「がんを診るというのは心と向き合うということです」と語り、学生や初期研修医たちに理想的な姿を示すことができました。

腫瘍内科はヒューマニティとサイエンスが交差する領域であり、分子生物学や免疫学の発展により、実際に患者さんに恩恵を与えることが可能です。地域社会での専門性が求められるため、がんを診る仕事は一生かけてやる価値があると言えます。

指導医からのコメントでは、腫瘍内科の魅力は患者さんの治療開始から終了までの長期的な関係性にあることが指摘されています。しかし、短期間のローテーションではその魅力を研修医に伝えることが難しいとの意見もあり、解決策を考える必要があるとされています。

4人の若手先生の姿を見て感じたこと。臨床研究や基礎研究を突き詰める生き方あり、地域医療や緩和ケアを含めた全人的医療を追い求める生き方あり、深くも広くも展開してゆけるというのががんを診るという仕事の最大の魅力と言えるでしょう。

指導医世代が考えるべきこと

これらの世代の研修をより魅力的なものにするためには、まず新専門医制度がネックになっていると感じます。とくに内科の他領域との連動研修を認めてもらえるかどうかが学会専門医制度の将来を大きく左右します。研修医にとってスムーズな専門医研修への進路が確保されるよう、制度面でのサポートが求められます。

次に、腫瘍内科が何をやっているかを明確に伝えるために、各県の大学の腫瘍内科講座がさらなる努力を行うべきです。教育カリキュラムの見直しや学生向けの情報発信を通じて、腫瘍内科の役割や魅力を伝えることが重要となります。

また、ロールモデルとなる先輩医師の育成や地域病院での専門医数を増やすことも課題の解決策となります。先輩医師が研修医や医学生に対してポジティブな影響を与えることで腫瘍内科への関心を高めてゆくことが、指導医世代の役割と言えるでしょう。

今後の魅力ある「医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー」に向けて

昨日の総会で発表された事前登録者の内訳によると、初期研修医と医学生を合わせた参加者は約40人。腫瘍内科や血液内科に関心を持つこれらの参加者は大切ですが、次のステップは、がんに興味があるものの積極的にアプローチしない層にどう働きかけるかが重要です。

医学生や研修医のための腫瘍内科セミナーでは、オンデマンド視聴登録用のQRコード付きチラシをJSMO会員に送り、「各所属先でがんに興味ある研修医に紹介してください」と呼びかけることで、参加者を5〜10倍に増やすことができるのではないでしょうか。その中から各県1人でも興味を持ってくれれば成功です。

最近は毎年JSMO最終日の医学生・研修医のための腫瘍内科セミナーに参加していますが、今回のセミナーは人選も構成も非常に良かったです。過去にはがんゲノムをテーマにした際、若者が取り残される場面もありましたが、今回は7年目医師とその指導医のペアをメインに据え、総合的な構成が功を奏しました。

しかし、セッションが良かったことと引き換えに、若者30~40人とオッサン20人程度しか参加していなかったのが残念です。このようなセミナーをライブ配信やオンデマンド配信で提供することで、より多くの医学生や研修医に腫瘍内科の魅力を届けることができるはずです。今後の腫瘍内科セミナーでは、こうした取り組みも検討することが重要でしょう。


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更新日:2023-03-18 閲覧数:313 views.