レ点腫瘍学ノート

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BRAF変異

BRAF変異大腸癌

大腸癌のBRAF変異検査については2018年8月1日より保険償還されることとなり、保険診療でのRASとBRAFの変異が開始された。All RAS変異の測定は2500点、BRAF変異の測定は2100点、RASKET-BによるRASとBRAFの変異同時測定は4000点となっている(2018年9月現在)。なおRASKET-BはBRAFのV600のみを評価対象としているので他のコドンの変異は測定されない。

大腸癌以外も含めた癌種別のBRAF変異の頻度

悪性黒色腫などでは極めてBRAF変異の頻度が高い。
Oncogene 2018;3183
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29540830

BRAFのV600以外のコドンでの変異と予後の関係

BRAF V600Eは予後が不良だが、V600以外のコドンに起こったBRAF変異は予後に悪影響を与えず、V600E変異とは臨床像も異なるため、実際はBRAF変異を測定するときはV600の変異のみを対象に考えれば良い。
J Clin Oncol 2017;2624
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28486044

大腸癌の10-15%がBRAF変異と言ってるけど大半はコドン600変異で、600変異の10分の1くらいの頻度で594変異か596変異がある。BRAF コドン600変異は「右側結腸・高齢・MSI・治療抵抗性・予後不良」なのに対して594と596は「直腸・MSS・予後良好」らしい。

大腸癌の原発巣の遺伝子異常の差異

左右での分子遺伝学的プロファイルの違いと、そのうちRAS・RAF・MSSの大腸癌に限定したサブ解析の報告。Wnt pathwayの異常は左側結腸癌に多く、EGFR抗体薬の奏効予測に関連があるかもしれない。またこの文献で取り上げられているPETACC-3臨床試験で、大腸癌の左右局在により差があることから左右局在のサブ解析が増えるトレンドが強まった。
Ann Oncol 2014;1995-2001
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25057166

BRAF変異陽性とMSI-H大腸癌は重複するので、BRAF変異陽性かつMSI-Hな大腸癌はBRAF+EGFR+MEK阻害剤治療が優先されるのか抗PD-1治療が優先されるのかは、今後議論が進むかもしれない。一方で、BRAF変異陽性とリンチ症候群は相互排他的である。

大腸癌の原発巣の局在による分子遺伝学的な多様性

左右で分けるのみでなく、より細かい大腸癌の局在ごとに遺伝子変異の頻度についての検討を行っている
Clin Cancer Res 2018;1062
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29180604

臨床試験

TRIBE試験(第3相)

BRAF変異大腸癌では既存のダブレットではOSが10ヶ月前後しか望めず非常に予後が悪いが、FOLFOXIRI+Bevにより一定の予後改善が見込まれるため、NCCNおよびESMOガイドラインなどではBRAF変異陽性大腸癌では左右局在を問わずトリプレットが推奨治療の1つとなる。国内のガイドラインでも2019年1月改訂の大腸癌治療ガイドラインからBRAF変異陽性大腸癌にはトリプレット+Bevが推奨治療の1つとして掲載される。

BRAF阻害剤

BRAF V600変異悪性黒色腫にはBRAF阻害剤単剤あるいはBRAF阻害剤+MEK阻害剤でも十分な有効性が示されているが、大腸癌ではBRAF阻害剤単剤やBRAF阻害剤+MEK阻害剤では十分な有効性が見られない。この理由として大腸癌では上流のRASや傍流のPI3Kのactivationの形態が異なるとか、RAF family内でもBRAFの他にCRAFが影響するなどの影響が考えられる。
Clin Cancer Res 2013;657
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23251002

BEACON CRC試験(第3相)

BRAF V600E変異大腸癌に対する2次治療または3次治療としての、EGFRmabセツキシマブ+BRAF阻害剤エンコラフェニブ+MEK阻害剤ビニメチニブの3剤併用試験。奏効率は41%と発表されているが、長期成績などは未発表。
ASCO-GI 2018
https://meetinglibrary.asco.org/record/155628/abstract

BRAF変異陽性大腸癌に抗EGFR抗体は無効か

RAS変異陽性大腸癌に対する抗EGFR抗体はプラセボと比べて上乗せ高価がほとんどないためRAS変異陽性大腸癌に抗EGFR交代を使用するのはほぼ無効と考えられる。一方でBRAF変異陽性大腸癌に対しての抗EGFR抗体は、抗血管新生抗体と比較すると抗EGFR抗体の有効性は限られるものの、プラセボと比較して有効性がないというわけではない(したがってBRAF変異大腸癌に対して抗EGFR抗体が全く無効とは言い切れないところがある)。

大腸癌バイオマーカーのASCOと病理学会の合同ガイドラインにおいても、ESMOと違ってBRAF V600変異は抗EGFR抗体の適応を決めるのにはエビデンス不足というスタンス(アメリカはNCCNもこのスタンス)。
J Clin Oncol 2017;1453
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28165299

もちろん、積極的に推奨されるものではないので標準治療とは言い難く、とくに一次治療においてはベバシズマブ併用が推奨される。

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更新日:2018-09-10 閲覧数:1660 views.