レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2023年 / 5月1日

若い医師に診察室での話のしかたを見せる

腫瘍内科

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がん診療とコミュニケーションスキル教育

がん診療を担当する医療者にとって、「どの治療を選ぶか」と同じくらい「どうコミュニケーションをするか」は重要な技術です。しかし、そのようなコミュニケーションスキルを教える教育や研修は、ほぼ存在していません。例えば、CST研修のような患者さんへの病状説明などを含むコミュニケーション方法に特化した研修プログラムも存在しますが、これはすでに何年もがん診療を経験した人々がさらにスキルアップを目指して参加するもので、まさに臨床に足を踏み入れたばかりの若い医師たちが学べる場は十分には提供されていないのが実情です。

若い医師たちに診察の風景や病状の説明の話の進め方を実際に見せてあげることは非常に重要だと感じていますが、彼らは日常診療で常に忙しく、そういった教育の機会を十分に提供する時間を取ることは容易ではありません。

近年では、入院期間が短くなり、通院でのがん治療が増えています。その結果、昔ながらの入院病棟で指導医とペアを組んで何週間もかけて併診するという研修スタイルは、徐々に行うことが難しくなってきています。それにもかかわらず、現代の医療環境に合わせた新しい研修スタイルを十分に提供することもできていないと感じています。

若い医師が患者さんに説明する話の進めかたを横で聞いていて、「その説明の仕方では、十分に理解されないのではないか」と思うことはときにあります。しかしながら、それにフィードバックを行い、路線を修正してあげる時間や機会がなかなかありません。もちろん、私の話し方も周囲の人々にどう聞こえているのかはわかりませんが。

自分の経験を振り返ると

私が初期研修を終えるか終えないかの頃、一回り上の先生の病状説明に同席させられ、がんの告知のような重要な話を、なまりになまった方言で説明している様子を何度も聞かされました。今思えば、それは私にとって貴重な経験でした。私たちはかつて先輩たちにしてもらったように、次世代の若い医師たちに対する教育として、自分達の診察や話の仕方を見せるという機会を提供しなければならないと感じます。

大学病院での研修医が教授の外来診察に陪席(シュライバー)し、その診察の様子を見て学ぶというスタイルは、徐々に廃れています。病院の人員不足や効率化のために診療補佐スタッフを充実させる動きが強まりましたが、これにより研修医は長時間の拘束から解放されるようになる一方で他の医師の診察を見て学ぶことがなくなりました。その結果として、先輩たちの独自のクセや隠し味を学ぶ機会が失われ、インスタント食品しか作ったことがない状態でいきなり厨房に立たされるような状況になってしまっています。

これからの医療界において、若い医師たちに適切な診察方法や病状説明のスキルを伝える教育や研修が必要不可欠です。現代の医療環境に合わせた新しい研修スタイルを開発し、次世代の医師たちに十分な教育を提供できるよう努めなければならないと感じます。若い世代の医師たちのために自分に何ができるのか、自問する日々です。


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更新日:2023-05-01 閲覧数:300 views.