レ点腫瘍学ノート

Top / 薬剤 / S-1

変則的な投与

S-1(ティーエスワン)の用量は基本的には体表面積に応じて80〜120mg/dayで単独投与では4週間投与・2週間休薬という42日サイクルです。SOX療法のように点滴薬と併用する場合は1日あたりは上記の用量で2週間投与・1週間休薬という21日サイクルになっているものもあります。

しかし、S-1は様々な臓器のがんに対して様々なセッティングで使用されており、なかにはこの用量通りではないものもあります。S-1の用量にいろいろなバリエーションがあるため、メモ代わりにここにまとめておきます。

一般的な4投2休ではないS-1隔日投与

進行胃癌に対する隔日投与の第2相試験は、6ヶ月無増悪生存率が20.9%と標準的投与法群の39.1%に比べて劣っている(HR 1.753)ことから標準治療の1つとは認められないと結論されました(JFMC43-1003試験)。
/Int J Clin Cancer
https://link.springer.com/article/10.1007/s10147-017-1157-3

進行膵癌の二次治療においては、S-1隔日投与は有害事象が減り、またOSは4.4ヶ月(標準投与群4.5ヶ月)と近似しているようにみえるものの統計学的には非劣勢マージンを超えることができず、S-1隔日投与の非劣勢性は示されませんでした。
/Oncology
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30368509

頭頚部癌に対する小規模な検討では、副作用が低い可能性が指摘されている
/Anticancer Res.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25667484

副作用が低いという特徴からbulnerableな高齢者などに対する治療としての選択肢になるかという点でKDOG1301(UMIN000013019)という第2相試験が実施されたようですが、その結果は発表されているのかどうかは発見できず。
https://rctportal.niph.go.jp/s/detail/um?trial_id=UMIN000013019

なお隔日投与レジメンには、本当に隔日としている臨床試験と週4回投与(つまり週1度は2日続けて服用する)という臨床試験があるようです。

局所進行膵癌に対するCRT

膵癌に対するCRTはゲムシタビンにせよS-1にせよいくつかのプロトコルが提唱されていますが、S-1でのCRTで最も使われているのは局所進行膵癌に対するJCOG1106*1のプロトコルでしょうか。S-1の投与量は80mg/m2なので標準投与量ですが特徴的なのは放射線照射日のみ内服という点です。S-1の投与方法には様々なスケジュールがありますが、この変則的なスケジュールはCRTに特徴的です。照射量は1.8Gyを28回で50.4Gyとなっています。
https://doi.org/10.1093/annonc/mdw371.13

膵癌のGS療法

2013年にJCOに掲載されたGEST試験*2で行われたGS療法は、S-1 80mg/m2をday1-14に、ゲムシタビン1000mg/dayをday1,8に投与するレジメンです。ただしこのレジメンはGEM単独療法に対する優越性が示せませんでした。

2019年にASCO-GIで発表された第2/3相試験(Prep-02/JSAP-05試験*3)の術前化学療法(NAC-GS)では、切除可能膵癌に対してこのレジメンを2サイクル実施したのちに手術に望むプロトコルが行われました。術後は10週間以内にJASPAC 01試験で示されているとおりS-1単独療法を開始し6ヶ月継続します。OS中央値は26.65ヶ月→36.72ヶ月に延長(HR 0.72)を示しました。なお、これに先立つ単群第2相PREP-01試験*4も同様の用量のレジメンを行っています。これによって、GEST試験の発表後は転移再発膵癌では用いられることが術前化学療法の候補の1つとして再び注目されるようになっています。
https://report.gi-cancer.net/gisympo2019/articles/189.html

胆道癌に対するGCS療法

2018年ESMOで発表されたKHBO1401-MITSUBA試験では、進行胆道癌に対するGCS療法のGC療法に対する優越性を示しました。このレジメンは2週間が1サイクルで、day1にゲムシタビン1000mg/m2+シスプラチン25mg/m2を投与し、S-1をday1-7に80-120mg/body投与(=1週投薬1週休薬)します。

SOXIRI療法

これはまだ膵癌に対して第2相試験*5がなされただけの段階であり臓器を問わず標準的治療とはなっていませんが、今後の治療開発によっては将来的に標準治療の1つと認められる可能性があります。特に膵癌ではすでに確立されているFOLFIRINOXに対して5-FUをS-1に置き換えたCVポート不要レジメンとしての需要は少なくないように思います。

このSOXIRIレジメンではS-1は80mg/m2の隔日投与を行い、イリノテカン150mg/m2とオキサリプラチン85mg/m2を14日毎に投与します。

この記事に対するコメント

このページには、まだコメントはありません。

お名前:


*1 http://www.jcog.jp/document/s_1106.pdf
*2 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23547081
*3 https://ascopubs.org/doi/10.1200/JCO.2019.37.4_suppl.189
*4 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30182219
*5 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30679316/

更新日:2020-04-25 閲覧数:1781 views.