レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2023年 / 6月6日

ASCO2023感想(Day4)

ASCO

いよいよASCOも終盤ですね。前日の記事はこちらです。

ASCO ADAURA試験(肺癌術後)DESTINY-PanTumor02試験 中間解析(臓器横断的HER2)NeoRAS探索的試験(大腸)PROSPECT試験(直腸癌術前)DESTINY-CRC02試験(HER2大腸癌)MORPHEUS試験(肝細胞癌)INDIGO試験(グリオーマ)昨日の記事はこちら。
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SONIA試験(乳癌)

Terrific work by the SONIA investigators. Using CDK4/6-inhibitors (mostly palbo) in 1L did not result in improvement of PFS2, OS or QoL compared to 2L use. However, 1L use increased the rate of ≥ G3 side effects by 42% and increased cost.

Poll below 👇 #ASCO23 pic.twitter.com/wTjvAeoT9j

— Paolo Tarantino (@PTarantinoMD) June 5, 2023

猫も杓子ものCDK4/6i無双に一石投じるSONIA試験です。NSAI+パルボシクリブ→フルベストラント vs. フルベルトラント→NSAI+パルボというように投与順序を逆にしただけでの2次治療までのPFS、OS、QOL指標を比較していますが、それぞれに差はなく、NSAI+パルボシクリブを先行するほうがgr3以上のAEは4割増え20万ドルのコスト増という結果です。

この発表から最初に導き出されるのは、NSAI+パルボシクリブよりもフルベストラントなどの単剤を先行するほうが毒性の面でも費用対効果の面でも優れているであろうという点でしょう。一方で、気になる点がいくつかあるのも確かです。

たとえば、この試験は海外で行われたものですが本邦では米国などで既に使えるようになっているリボシクリブやアルペリシブの選択肢がありません。フルベストラントはありますがエラセストラントもありません。特に上記の2治療が療法とも不応になった後の選択肢はやや心許なく、海外に比べると早期にパクリタキセルやエリブリンなどの化学療法へ移行を余儀なくされることも予想されます。となると、この結果が日本に直ちに外挿できるかどうかは不明です。

本当はホルモン感受性乳癌も画一的治療ではなく(oncotypeDXみたいなリスクの数値化するアッセイで)もう少し再発予測に応じた治療を最適化しなきゃならない時期にきてるんじゃないかと思います。再発リスクが低い患者には、より軽度の治療を検討することが可能であり、逆に再発リスクが高い患者には、より強力な治療を選択することができます。これにより、過剰治療を回避しながら、より効果的な治療を提供することが期待されます。個々の患者の再発予測に応じた最適な治療を行うことで、治療効果の最大化や副作用の最小化が可能になると考えられています。

TALAPRO-2試験(前立腺癌)

Breaking news👉#ASCO2023 @ASCO Dr. #KarimFizazi presents the First results from all HRR positive 1st line mCRPC #ProstateCancer patients (n=399)from our phase 3 TALAPRO-2 trial👉Talazoparib + Enza significantly improves rPFS vs Enza (HR 0.45), OS trending well👇@OncoAlertpic.twitter.com/xe5TLSmso3

— Neeraj Agarwal, MD, FASCO (@neerajaiims) June 4, 2023

転移性去勢抵抗性前立腺癌に対するエンザルタミドに最強PARP阻害剤タラゾパリブを上乗せしたという大規模比較試験が行われました。この試験では、PARP阻害剤であるタラゾパリブがBRCAなどのHRR関連遺伝子で層別化せず、前立腺癌全体を対象にしているという野心的な試験設計がなされています。さらに、HRR関連遺伝子変異の有無による層別化も行われています。

現時点ではまだ最終解析ではないため、censoredデータが多く残っており、今後の長期フォロー解析の結果発表が待たれますが、現時点ではrPFS HR 0.45、OS HR 0.69というかなり優れた成績が報告されています。さらなる追跡調査によって、この差がより広がる可能性も考えられます。

Slide from @vanderweelemd during his excellent #asco23 discussion regarding subsequent #parp inhibitor in #TALAPRO2 @AdamSharpMedOnc @quimmateo @EAntonarakis pic.twitter.com/GW5HhUnfWU

— Ravi A Madan M.D. (@Dr_RaviMadan) June 4, 2023

なお、このTALAPRO-2試験のタラゾパリブのPFS HR 0.45とBRCAアームにおけるOS HR 0.20の数値を、別のPARP阻害剤であるオラパリブのPROpel試験とニラパリブのMAGNITUDE試験と比較した結果もあります。上記のツイートからもわかるように、タラゾパリブの性能の高さが際立っています。

この試験結果は、『The Lancet』に同時掲載されました。

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(23)01055-3/fulltext

UCBG-UNIRAD #546(乳癌)

#ASCO23
The importance of circadian rhythm

A very interesting study..

💥According to this study, evening tamoxifen intake is associated with an improved DFS in high-risk HR+/HER2- breast cancer patients

The work of Dr. Sylvie Giacchetti and colleagues👇@OncoAlert pic.twitter.com/4Rxiq9QSEn

— Yakup Ergün (@dr_yakupergun) June 6, 2023

じなん先生に教えてもらったポスター発表ですが、非常に興味深い結果が発表されました。この試験は、ホルモン感受性乳癌の内分泌療法において、ホルモン剤の服用をどの時間帯に行うかを比較するランダム化試験です。この試験の着眼点は非常に珍しく、斬新です。服用時間を朝、昼、夜の3群に分け、無再発期間(DFS)および転移出現抑制期間(MFS)を検討しました。解析の結果、夜に内服をした群では予防効果が良好であり、内分泌療法の服用を夜にすることが有益であるという結論が示唆されました。この服薬時間によって効果が変わるというのは、素晴らしい着眼点の研究ですね…。

CONTACT-03試験(腎癌)

Efficacy and safety of atezolizumab + cabozantinib vs cabo alone after progression with prior ICI treatment in #mRCC: Primary PFS analysis from the phase 3, randomized, open-label #CONTACT03 study. Presented by @DrChoueiri > https://t.co/9eKxQ9kSZq #ASCO23 @zklaassen_md @ASCO pic.twitter.com/8ZGl2zpkrS

— UroToday.com (@urotoday) June 5, 2023

この試験は、腎細胞癌の後方治療において、アテゾリズマブ+カボザンチニブの併用療法がカボザンチニブ単剤と比較してどれだけ優れているかを検証するために行われました。ただし、本試験の注目点は単純にアテゾリズマブの有用性を確認するだけではなく、免疫チェックポイント阻害剤のリチャレンジの有用性を調べるという点にありました。

参加条件には、術後療法、一次治療、二次治療のいずれかのラインで免疫チェックポイント阻害剤を使用しているという条件があります。つまり、この試験に参加している患者はすべて、免疫チェックポイント阻害剤の治療経験があるということです。術後療法で使用するのと転移再発後の一次治療や二次治療で使用するのでは状況が異なるため、それぞれのグループに分けて解析が行われています。

結果として、主要評価項目であるPFSでは、カボザンチニブ単剤群とアテゾリズマブ併用群での差はほとんど見られず、OSにおいても生存曲線がほぼ重なっていることから、免疫チェックポイント阻害剤のリチャレンジにはほとんど有効性が見られないというネガティブな結果となりました。

この試験は腎癌に関するものですが、免疫チェックポイント阻害剤の効果が比較的期待できる腫瘍であるにもかかわらず、リチャレンジの有用性については根拠が見つかりませんでした。したがって、他の臓器でも免疫チェックポイント阻害剤のリチャレンジを推奨する根拠はないと考えられます。

この試験も前述のTALAPRO-2試験と同様に『The Lancet』に同時掲載されています。

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(23)00922-4/fulltext

JCOG1017試験(乳癌)

JCOG1017試験 
名前間違えているディスカッサント
de novo stage4乳がんの原発巣切除
phase3試験
OS 68.7vs74.9m HR0.857
でネガティブでしたが、閉経前はサブグループとしてよさそう。
質疑は三つある演題なのにほとんど枝園先生に集中していた#ASCO23 pic.twitter.com/Itag1FfRaK

— shimoi (@shimoi_oncology) June 5, 2023

この試験は、de novo stage4乳癌(初期診断時に既に転移がある乳癌)において、原発巣切除の意義を検証する臨床試験です。大腸癌や乳癌においては、このテーマが定期的に取り上げられており、過去にはTata試験やECOG2108試験などが行われてきました。最近では、どの癌でも原発切除をしても予後は改善しないという傾向が強まっていますが、JCOGでは本邦の乳癌患者に対しても積極的に試験が行われました。

この試験では、まず全身化学療法が先行し、無増悪で推移した症例を対象に手術介入の割り当てが行われました。5年生存率では手術介入群が62.5%、非手術群が55.4%であり、HRは0.84ですが、信頼区間は0.70から1.10と1をまたいでいます。また、OSの中央値においても手術介入群は68.7ヶ月から74.9ヶ月に延びていますが、有意な結果ではないとの結論が出ています。統計学的に有意とは言えないものの、この差は悪くないと感じられるでしょう。

転移性乳癌に対する原発巣切除は全身療法単独に比べてOSを改善しないが局所制御に優れる【ASCO 2023】
遠隔転移を有する乳癌に対して全身療法に加え原発巣切除を行うことは、全身療法単独と比較して全生存期間(OS)を改善しなかったことが、ランダム化フェーズ3試験のJCOG1017試験(PRIM-BC)で明らかになった。また原発巣切除により局所無再発生存期間は有意に改善し、局所制御は優れていたことが確認さ…
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/news/202306/579950.html

大腸癌のJCOG1007試験の時にも同じ話が出たと思いますが、この試験では手術介入をしても有意な差が無かったので手術介入に意味は無いという結論につなげるのではなく、手術をしてもしなくても予後に大きな差は無いので個々の患者の状況や価値観や症状に応じて、手術をするもしないも臨機応変に判断してよいと考える方が現場は動きやすいでしょう。これこそ本来の臨床家のあるべき姿のように思えます。

TROPiCS-02試験(乳癌)

Final overall survival results from the #TROPiCS02 phase 3 trial presented by @stolaney1. Sacituzumab govitecan significantly improved OS over chemo irrespective of Trop2 expression and HER2-low status. Reinforces the role of SG for chemo-refractory patients with HR+ MBC. #ASCO23 pic.twitter.com/30TC3hyOg7

— Paolo Tarantino (@PTarantinoMD) June 5, 2023

この結果はもう既によく知られているような気がしなくもありませんが、サシツズマブ・ゴビテカンのOS解析結果はHR 0.79で有意にOS改善という結果でした。

X-7/7試験(乳癌)

The X-7/7 trial an important study comparing fixed done #capecitabine (1500mg BID) 7-on 7-off vs standard dose (1250mg/m2 BID) 14-on 7-off
✅Similar PFS & OS
✅Significant reduction in toxicity with the 7-on 7-off

IMO: X-7/7 should be adopted! #ASCO23 #bcsm @OncoAlertpic.twitter.com/gnUjy3ewAo

— Jason A. Mouabbi MD (@JAMouabbi) June 5, 2023

この試験は乳癌の治療においてカペシタビンの服用方法に関する臨床試験です。カペシタビンの投与方法を1250mg/m2×2回で14日服用・7日休薬とする群と、1500mg×2回で7日服用・7日休薬とする群を比較しました。服用日数が減少し、1日あたりの容量も体表面積によって変わるため、RDI(推奨投与量)は半分近くまで低下しますが、意外にもPFSはほとんど変わらず、HRは1.00と報告されました。

過去には胃癌や膵癌においてS-1の確実投与が通常投与法に比べて予後を悪化させる結果が報告されたことがありますが、今回の試験ではまだそのような深刻な結果は出ていないようです。ただし、この試験結果1つだけでカペシタビンの服用方法が大幅に変更されることはないでしょう。今後の再現性の確認が待たれるところです。

D-TORCH試験(支持療法)

#ASCO23
D-TORCH: Topical diclofenac in prevention of hand-foot syndrome in pts receiving capecitabine

💥Topical diclofenac is effective in preventing all grades of HFS in patients receiving capecitabine

New standard of care to prevent capecitabine associated HFS?@OncoAlert pic.twitter.com/AXOlcM2jpZ

— Yakup Ergün (@dr_yakupergun) June 5, 2023

カペシタビン治療における副作用として厄介なものの一つに、手足の皮膚障害があります。それは痛みや不快感を伴い、日常生活や治療継続に影響を及ぼすことがある重要な問題です。それに対する解決策として、最近行われたD-TORCH試験では、ジクロフェナクの塗り薬が皮膚障害の大幅な軽減に寄与することが示されました。具体的には、手足症候群のGr2以上の副作用が15.0%から3.8%へと減少しました。これは約4分の1の差で、まさに驚くべき結果です。

なんとなく消化管での粘膜障害で潰瘍できたりするイメージから、カペシタビンで皮膚がめくれて皮下組織が見えて滲出液が出たりする病態にジクロフェナクを塗るなんてむしろ逆効果じゃないのかと、なんとなく直感に反するようにも見えるので、なおさら不思議な気がしますね。

もしジクロフェナクの塗り薬がカペシタビン治療における手足の皮膚障害を予防することが確認されれば、これは治療の質を大きく向上させる可能性を秘めていると言えます。


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更新日:2023-06-06 閲覧数:966 views.