レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2024年 / 4月12日

標準治療前からのMSI検査・MMR検査

腫瘍内科 がんゲノム 検査

昨日じなん先生と話していたMSI検査を切除不能一次治療の開始前から実施してよいかという件についていろいろ調べていたところ、どうやら令和3年8月25日付の通達によって標準治療終了見込みと言う縛りが外れているようだと言う文章を見つけた。完全に見落としていた。

変遷

これについては一見するとわかりにくい変遷があるので、保険承認範囲の変化をずっと厚労省の公式通知を追って確認してみた。

2020年4月診療報酬改定以前

まず令和2年(2020年)4月の診療報酬改定までは、D004-2悪性腫瘍組織検査「1」チとして以下の項目に2100点が付けられていた。

家族性非ポリポージス大腸癌又は局所進行若しくは転移が認められた標準的な治療が困難な固形 癌におけるマイクロサテライト不安定検査

2020年4月診療報酬改定(ペムブロリズマブコンパニオン検査とリンチ症候群診断補助の検査の分離)

これに対して令和2年(2020年)診療報酬改定*1でD004-2悪性腫瘍組織検査の「1」イ(1)および(2)が設定されて点数が区別されるようになっている。すなわち、リンチ症候群の診断の補助を目的とする場合ではないMSI検査は2100点から2500点に増点となった。

D004-2悪性腫瘍組織検査の「1」 イ(1) 2500点

D004-2悪性腫瘍組織検査の「1」イ(2) 2100点

なお、この2種類はペムブロリズマブのコンパニオン検査とリンチ症候群診断補助の検査でそれぞれを1回ずつ実施できる(ただし多くの場合は症状詳記が必要になる)。

2020年11月(切除可能大腸癌などへの範囲の拡大)

そして、2020年秋からは切除可能大腸癌にもMSI検査が実施可能になるという画期的な変更がなされた。2020年11月30日付の保医発1130第5号*2「検査料の点数の取扱いについて」では以下のような記載がある。

別添1第2章第3部第1節第1款D004-2(1)中「リンチ症候群の診断の補助を目的とする場合又は局所進行若しくは転移が認められた標準的な治療が困難な固形癌の抗悪性腫瘍剤による治療法の選択を目的とする場合」を「リンチ症候群の診断の補助を目的とする場合又は局所進行若しくは転移が認められた標準的な治療が困難な固形癌若しくは手術後の大腸癌の抗悪性腫瘍剤による治療法の選択を目的とする場合」に改める。

この時点で大腸癌では一次治療開始前や切除可能であってもMSI検査が実施可能となり、現在ではstageIIやIIIの大腸癌でもほとんどの場合で、MSI検査が実施されている。すなわち、令和2年11月30日付の通達時点でのMRI検査の保険適用は以下の3つである。

しかし、胃癌でも一次治療前からの検査を行うことの意義が言われるようになり、いったいどの臓器でどの段階からのMSI検査を行って良いのかが臨床の場でも混沌として施設によってもかなり運用に差があるように思われる。

2021年8月(標準治療終了見込みの縛りの削除)

その中で、保険適用の文面を注意深く見ていると、令和3年8月25日保医発0825第1号*3ではD004−2悪性腫瘍組織検査(2)から「局所進行又は転移が認められた標準的な治療が困難な固形癌又は手術後の大腸癌におけるマイクロサテライト不安定性検査」の太字部分の縛りが削除されている。つまり保険適用は以下の2つになっている。

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確かにD004-2悪性腫瘍組織検査の(2)エの令和2年診療報酬点数表*4令和4年診療報酬点数表*5を比べてみると、表記が下記のように変わっている。

令和2年診療報酬点数表

令和4年診療報酬点数表

やはり令和3年8月25日保医発0825第1号の時点で、MSI検査は標準治療終了見込みの縛りが大腸癌だけでなく全臓器で完全に解除されているというのは間違いなさそうだ。よくよく探してみると、毎週のようにチェックしているGemMedのサイトでもしっかりと標準治療終了見込みの縛りが解除されたことが取り上げられている。気づいていなかった。

がんの遺伝子検査(マイクロサテライト不安定性検査)、保険診療の中で「すべての固形がん」に実施可―厚労省 | GemMed | データが拓く新時代医療
がん遺伝子検査の1つである「マイクロサテライト不安定性」検査について、保険診療の中で「すべての固形がん」を対象に実施することを認める―。 厚生労働省は8月25日に通知「検査料の点数の取扱いについて」を発出し、こうした点を明らかにしました。同 …
https://gemmed.ghc-j.com/?p=42825

2022年9月(MMR検査の適応拡大)

令和4年9月30日保医発0930第9号「検査料の点数の取扱いについて」*6でさらにMSI検査だけでなくMMR検査(N005-3(2)ミスマッチ修復タンパク免疫染色(免疫抗体法)病理組織標本作製)がペムブロリズマブのコンパニオン検査として実施できる旨の項目が新設される。検査の適応は以下の3つである。

ここでも局所進行又は転移が認められた標準的な治療が困難な固形癌の縛りの記載はなく、単に固形癌とだけ書かれている。また、一旦MMR検査を実施したのちに、後日ペムブロリズマブのコンパニオン検査として再度MMR検査を行うことも認められているようである。ただし、MMR検査とMSI検査を両方とも行った場合は「主たるもののみ算定する」となっているので片方しか算定できない。保険点数は2700点*7

上記で3行にわたって記載されているもののうち3つめは、大腸癌においてはMMR検査が抗PD-1抗体だけでなく抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)の適応判定にも使われるので別途記載されているものと思われる。

なお、このMMR検査(免疫組織化学染色法(IHC法)によりがん組織中のミスマッチ修復に関与するタンパク、MLH1、PMS2、MSH2、MSH6の発現状況を調べる体外診断用医薬品4品目)について、2021年の年末にロシュが製造販売承認を取得していた*8が、その際のプレスリリースでは「がん化学療法後に増悪した進行・再発のマイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」という縛りが丁寧に描かれているので、まぎらわしい。検査試薬(ベンタナOptiview MSH6(SP93)など)の添付文書*9を見てみるとこの縛りは記載されておらず「ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)の固形癌患者への適応を判定するための補助」としか書かれていない。臨床的意義の欄に「標準的な薬物療法を実施中、または標準的な治療が困難な固形がん患者に対して、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を強く推奨する」とは記載してあるものの、添付文書のうち「臨床的意義」の欄は保険診療情報の用法用量を縛るものではないというのが通説なので、やはりここでも標準治療前からの使用を不可とする記載は見つけられない。

MSI検査とMMR検査はかなりの症例で陽性・陰性が一致するが、そこには微妙な不一致が生じやすいケースもあるために米国病理学会のICI適応判断のためのMMR・MSI検査に関するガイドラインを2022年年始に作成してJCOに掲載している*10。消化管はMSI・MMR検査はどちらでもほぼ同等だが子宮体癌はMSI検査ではなくMMR免疫染色が推奨される。NGSベースMSIはPCRベースMSIを代替置換しうる。TMBはMSI・MMRの代用にはならない。

Mismatch Repair and Microsatellite Instability Testing for Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: ASCO Endorsement of College of American Pathologists Guideline - PubMed
Within the guideline, MMR immunohistochemistry (IHC), MSI polymerase chain reaction, and MSI next-generation sequencing are all recommended testing options for colorectal cancer, MMR-IHC and MSI-polymerase chain reaction for gastroesophageal and small bowel cancer, and only MMR-IHC for endometrial c …
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36603179/

まとめ

これによってMSI検査およびMMR検査は現在はかなり縛りが取れている。上記のものをまとめると、2024年4月現在は下記のようになる。

腫瘍内科 がんゲノム 免疫チェックポイント阻害薬適応判定のためのマイクロサテライト不安定性検査(MSI検査)を行う際に、これがリンチ症候群のスクリーニングにもなりうることを説明し同意を得たことを診療録に記載することが大腸がん診療における遺伝子関連検査のガイダンス第3版2016年11月(日本臨床腫瘍学会編)に記載されている。このために、日

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*1 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000604939.pdf
*2 https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tokaihokuriku/iryo_hoken/santei/000167874.pdf
*3 https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/000199093.pdf
*4 https://shirobon.net/medicalfee/latest/ika/r02_ika/r02i_ch2/r02i2_pa3/r02i23_sec1/r02i231_sub1/r02i2311_cls1/r02i23111_D004_2.html
*5 https://shirobon.net/medicalfee/latest/ika/r04_ika/r04i_ch2/r04i2_pa3/r04i23_sec1/r04i231_sub1/r04i2311_cls1/r04i23111_D004_2.html
*6 https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/000255470.pdf
*7 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000989563.pdf
*8 https://www.roche-diagnostics.jp/media/releases/2021-12-20
*9 https://www.info.pmda.go.jp/tgo/pack/30300EZX00103000_A_01_05/
*10 https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.22.02462

更新日:2024-04-12 閲覧数:597 views.