レ点腫瘍学ノート

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新しい遺伝子パネル検査

新しい遺伝子パネル検査

新しいがん遺伝子パネル検査まとめ

これまでシスメックス・国立がん研究センターなどが研究開発を進めてきたNCCオンコパネルと、中外製薬やFoundation Medicineなどが開発するFoundationOne CDxが、国内のがんゲノム医療のための多遺伝子パネル検査として保険承認されています。しかし、今後も新たに様々なパネル検査が登場してくる見込みです。このページでは今後登場してくるであろう新規のがん遺伝子パネル検査について書いています。

Oncomine Target Test

https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/about-us/news-gallery/release/2019/pr060319.html

多くのパネル検査がイルミナのシークエンサーを使っている中で、Oncomine Target Testはサーモフィッシャーサイエンティフィックのシークエンサー(IonPGM)を使ったパネル検査です。非小細胞肺癌のコンパニオン診断としてはすでにオンコマインDx Target TestマルチCDxシステム(ODxTT)が薬事承認されて、2019年10月より実用化されています。

なお、Oncomine Target TestとODxTTの違いは試薬が治験用グレードとして承認されているか臨床用グレードとして承認されているかなどの規格の違いもありますが、解析からレポート作成までのプログラムにも違いがあるようです。このためにOncomine Target Testはコピー数異常も解析対象に含めていますが、臨床で使われているODxTTでは(変異と融合遺伝子などは報告されますが)コピー数異常は報告されません。

なおODxTTで薬事承認を経ているのはEGFR、ALK、ROS1、BRAFの4遺伝子で、原則としてはこの4遺伝子の測定結果のみがレポートとして報告されますが、薬生機発0428第1号、薬生監麻発0428第1号により研究目的として解析対象とした全遺伝子の測定結果を臨床サイドに報告する事ができるようになっています。しかしあくまで研究目的としての特例のために、この結果をもとにエキスパートパネルを開催して保険承認されている他のパネルのように患者申出療養などにつなげることはできません。

Guardant360

http://www.guardant360.com/

組織検体を使わずに血液検体(リキッドバイオプシー)で行うがん遺伝子パネル検査での現時点の本命はGuardant360でしょう。GI-SCREEN-JapanのGOZILAプロジェクトもこのGuardant360を用いており、リキッドバイオプシーの中では最も日本で頻用されているパネル検査と思われます。

使用するシークエンサーはイルミナ社のNextSeqで、ctDNAから1塩基変異(SNV)、挿入欠失(Indel)、増幅(Amplification)、融合(Fusion)を検出します。またMSIも判定します。TMBについては現状では報告されません。

解析対象遺伝子はSNVとIndelは74遺伝子、増幅/コピー数異常は18遺伝子、融合はALK、FGFR2、FGFR3、RET、ROS1、NTRK1の6遺伝子です。MSIはctDNAから測定するには解析上の処理が必要で、この論文に記載の方法で算出されているとのことです。なお、Guardant360の解析対象遺伝子および解析プロトコルは現在もアップデートが継続されていて、また同一変異であってもその判定が有意かどうかの基準などアノテーション結果も逐次改良されているようです。

開発を行うGuardant Healthに対して孫正義氏が率いるソフトバンクグループが3億6000万ドルにものぼる資金拠出を受けたことが報道*1されたこともあるなど、産業界からの注目も集めています。また、NCCオンコパネルとFoundationOne CDxに次ぐ3番目の保険承認されたパネル検査になる可能性もあると言われています。

FoundationOne Liquid CDx

https://www.foundationmedicine.com/genomic-testing/foundation-one-liquid
https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20200331150000_966.html

FoundationOne CDxを提供する中外製薬などが開発しているリキッドバイオプシーです。進行固形がんのctDNAの検出を行います。以前はFoundationACTと呼ばれていたものにあたります。

登場まもない頃のFoundationOne Liquidは70種類の遺伝子を解析対象としていますが、その内訳は全エクソンを解析するものが35遺伝子、イントロンを解析するものが7遺伝子(ALK、EGFR、FGFR2、FGFR3、PDGFRA、RET、ROS1)となっています。そして、その後に登場したFoundationOne Liquid CDxは解析遺伝子数がFoundationOne CDxと同じ324遺伝子まで増加しています。

こちらもGuardant360と同様に、厚生労働省に製造販売承認の申請を出しています*2。SCRUM-JAPANに提供を行い、リキッドバイオプシーでのGuardant360に対する遅れを取り戻すための取り組みを進めています*3

FoundationOne Heme

https://www.foundationmedicine.com/genomic-testing/foundation-one-heme

多くの遺伝子パネル検査が固形がんを標的にして開発を進めている中で、このFoundationOne Hemeは造血器腫瘍(血液腫瘍)までもを対象としたパネル検査になっています。従来のアンプリコンベースのシークエンスでは苦手とされていた染色体転座や融合遺伝子もカバーできるように405のDNAと265のRNAをシークエンスする設計になっており、またMSIおよびTMB scoreも判定します。

現行の多くのパネル検査はDNAのみを解析対象としているのに対して本パネルはRNAも検査対象にしています(このパネルの他にはOncomine Target TestやTodai OncopanelなどもRNAを解析対象に含めています)。検体は血液検体、骨髄液、FFPEなど幅広く対応しますが、どれでも検査できると言うよりは対象とする腫瘍細胞がもっとも多く含まれる検体を使うべきでしょう。

血液腫瘍だけでなく肉腫もカバーする設計になっています(Foundation Medicineのカタログ上はsolid tumorとも記載されていますが、中外製薬の資料を見るとやはり血液腫瘍と肉腫が主たるターゲットとなっている)。

バリデーションに関してはFoundation Medicineの資料ではFoundationOne CDxとFoundationOne Hemeの一致率は99%以上を達成し、さらにHemeは90以上の造血器腫瘍に特有の遺伝子を解析対象にしているとのことです*4

これまでにもこのパネル検査を用いた研究論文も既に数多く発表され、それらはFoundation Medicineのウェブサイトで公開されています。
https://www.foundationmedicine.com/publications

TruSight Oncology 500

https://jp.illumina.com/products/by-type/clinical-research-products/trusight-oncology-500.html

FoundationOneやGuardant360はイルミナ社のシークエンサーを使用していますが開発元はイルミナとは異なる会社です。イルミナ社が直接開発を進めているものとしてはTruSight Oncology 500があります。組織検体を用いるものとリキッドバイオプシーに対応するパネルの2種類があります。

これは523種類のDNA、55種類のRNA、TMB、MSIを一網打尽的に解析するというパネルです。特に融合遺伝子の検出はRNAライブラリーを用いて検出することで精度を高めています。つまり融合遺伝子であってもRNA発現がないものは除外し、何らかの活動に影響を与えそうな融合遺伝子を拾い上げられるようにしています。

MSIについては130箇所のMSIマーカーサイトのシークエンス結果から算出したMSI scoreとして報告します。


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*1 https://www.businessinsider.jp/post-33537
*2 https://www.carenet.com/news/general/carenet/49825
*3 https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20200213150001_943.html
*4 https://assets.ctfassets.net/vhribv12lmne/6M93OYsxcxbKhQji9T8Iqy/d572206e747a2a22c482f039d8171ea2/F1Heme_Blood_Validation_WhitePaper.pdf

更新日:2020-05-23 閲覧数:3024 views.