腫瘍学レ点ノート

2020-06-27

平成のオンコロジストと令和の臨床腫瘍学の進歩

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TMBが10/Mbを超える固形がんにFDAがペムブロリズマブを承認

2020年4月にFoundationOne CDxのTMBスコア10以上に対するペムブロリズマブがFDAに承認申請されました。そして2020年6月17日にFDAがこのTMB 10mut/Mb以上の固形がんについてペムブロリズマブを承認したと報じられました。
https://seekingalpha.com/news/3583617-fda-oks-mercks-keytruda-for-second-application-based-on-biomarker

これはESMO2019で発表されたKEYNOTE-158の追加解析*1によるもので、MSI-H固形がんを除外するとTMB-High群では奏効率が27.1%に対して非TMB-High群で奏効率が6.7%にとどまったことから(従来MSI-HがICIの奏効予測バイオマーカーとされていたのに加えて)TMB-Highが新たにICIの奏効予測バイオマーカーとなるというものです。TMBが高いことはICIの有効性に関連するということは以前から言われており、TMB-Highの固形がん患者にとって期待できる選択肢が増えたのは歓迎すべきと言えます。

10mut/Mb以上のTMB-Highのがんが多く含まれるがICIがまだ標準治療となっていないのは、上記のツイートにあるように非扁平上皮の皮膚悪性腫瘍(40.6%)や副腎癌(11.8%)・小腸癌(12.2%)などの希少がんも含まれています。ほとんど治療選択肢がなかった希少がんの患者にとっては大きな福音となることは間違いありません。

希少がんでなくても、たとえばASCO2020で発表されたトリプルネガティブ乳癌(TNBC)のKEYNOTE-119のように非常に予後が悪い悪性腫瘍でもTMBが10mut/Mbを超えていればペムブロリズマブによる治療が化学療法をOSで上回るという報告もあります*2。この試験では奏効率はTMB 10未満が12.7%に対して14.3%と僅かな差であったことに注意が必要です。TAPUR試験でも転移性TNBCでTMBが9mut/Mb以上であればペムブロリズマブの奏効率が21%と良好な成績を示していました*3

ただ、この承認については背景のエビデンスもよく吟味して正しく判断する方がよさそうな印象を受けます。以下にそれについて述べます。

奏効率での評価

この発表(というかKEYNOTE-158そのもの)が比較対象の置きようのない第2相試験であったこともあって主要評価項目は奏効率となっています。それゆえにTMB 10/Mb以上に対するペムブロリズマブの有効性も奏効率がTMB-High(非MSI-H)がTMB-Lowより高かったことで示されたとされています。しかし、(MSI-Hを対象にしたもともとのKEYNOTE-158にはMSI-LやMSSの症例が含まれていないのでMSIの有無では単群の奏効率でしか評価がしようがないのは理解できますが)、この母集団の中にはTMB-HighとTMB-Lowが入っていて予後も追跡できているのですから、TMBの高低では奏効率だけでなくPFSやOSの比較もできそうな気もします。PFSやOSを見なくても良いのでしょうか?

そして実際にOSの図を見てみると、この2つはほとんど重なっています。12ヶ月生存率は49→52%、24ヶ月生存は31→34%でした。MSI-Hだけをリクルートした試験なのでTMB-High全般を解析対象としているわけではないのですが、この研究結果からTMB 10/Mb以上でペムブロリズマブが承認されるなら、転移性乳癌のベバシズマブをFDAが承認するかどうかでひと悶着(PFSは伸びているがOSは伸びていないので承認を取り消した件)があったのは一体何だったのだろうという気もします。

対象臓器の偏りの問題

まず、この研究は「免疫チェックポイント阻害薬が比較的よく効きそうな臓器の腫瘍」が多く含まれていることやTMBがギリギリ10というよりは十分に高い症例が多いことから、解釈には注意が必要です。

この解析では10種類の癌腫が対象とされており、小細胞肺癌(34.3%)、子宮頚癌(16.2%)、子宮体癌(15.2%)、肛門管癌(14.1%)などがTMB-High群に多く見られた一方で、非TMB-High群では悪性中皮腫・神経内分泌腫瘍・唾液腺癌などが多く含まれていました*4。TMB-High群には免疫チェックポイント阻害剤の有効性が期待できそうな癌腫が多く含まれていることについては若干疑問を抱きます。

なぜなら、本来TMB-HighがICIの奏効予測バイオマーカーであることを示すには「TMB-Highの非小細胞肺癌とTMB-Lowの非小細胞肺癌」「TMB-Highの子宮体癌とTMB-Lowの子宮体癌」など対象臓器をある程度そろえる必要がありそうなはずなのに、今回のKEYNOTE-158の追加解析は「TMB-Highの肺癌・子宮癌とTMB-Lowの悪性中皮腫・神経内分泌腫瘍」のようにTMB以外の要素がかなり異なる患者集団を比較しているからです。せめてICIがすでに標準治療として確立されている臓器とそうでない臓器でN数を層別化して比較するくらいの遠慮はあってよかったのではないかという気がします。

もしこの内容でレジデントが学会予演会をしたら「そりゃ肺癌が多く含まれる群と神経内分泌腫瘍が多く含まれる群を比べたら前者の方がICIの奏効率が高いのは当然で、TMB-HighとTMB-Lowの比較にはなってないよ」という総ツッコミを受けそうな気もするのですが、そういう批判はスルーで良いのでしょうか。。。

実際、ESMO2019でなされた非小細胞肺癌に限定した検討では、TMB-Hはペムブロリズマブの治療効果の関連について検討した発表*5から、奏効予測バイオマーカーではないとのリリースもされています*6。またCHECKMATE-227のプラチナ+GEM群に対するイピリムマブ+ニボルマブについての検討でもTMBの高い群と低い群のフォレストプロットを見てもTMBはバイオマーカーのようには見えてきません。少なくともPD-L1を差し置いて重視するべきバイオマーカーではなさそうです。他にも、KEYNOTE-021、042、010などでもTMBの解析もされていますが結果は一様ではないようです。デュルバルマブ+トレメリムマブのMYSTIC試験ではTMBが16/Mb以上でOSが10.5→16.5と若干伸びているようではあります*7

KEYNOTE-158に含まれていない臓器の解釈

今回はKEYNOTE-158の追加解析のデータでこの結果が導き出されていますが、上で述べたように対象となったのは10種類の臓器に限られています。したがって、この研究でTMB-High群に含まれていなかった臓器にも拡大してエビデンスを適用して良いのかという問題もあります。

FoundationOne CDxのTMBカットオフ値

2019年夏頃まではFoundationOne CDxのTMB-Highはカットオフ値を20/Mbとしていましたが、2019年秋のある時点からカットオフ値が10/Mbに変更されています。このカットオフ値の変更については「いつのまにか変わっていた」という唐突な印象がありました。TMB-Highに対するICIの有効性が期待できることにはコンセンサスがあるとは言え、そのカットオフ値が10/Mbで良いのかについてはもっと議論が盛り上がって欲しいところです。

ただし、「みなし標準」としてこのKEYNOTE-158の追加解析を始めとしていくつかの研究はカットオフ値を10と定義して解析を行っているため、今後はFoundationOne CDxのTMBスコアカットオフ値は10になってゆくものと推測されます。良くも悪くも、この業界の「標準化」に関する絶大な開発力を持っているFoundationOneとMSDがその気になっているので、いくら末端が疑問を呈したところでこの流れは変わりそうにはありません。

あと付け解析の問題

TMB-High群は奏効率が有意に高かったというのはもちろん歓迎すべき点です。しかしKEYNOTE-158はもともと(TMB-Highではなく)MSI-Hを対象にリクルートした試験であるところを付随研究としてTMBの高低で層別化しているわけですから、どこまで事前に検討されていた研究なのか知りませんが、この結果をそのまま「KEYNOTE-158のデータから示された」と受け入れて良いのかという違和感はあります。

あとから別のエンドポイントで評価して薬剤の承認につながるのならKEYNOTE-062で見られたようなアルファの分割による検定の多重性の補正の問題を回避して、いくらでも有利な解釈を持ち出すことができるような気もしてきます。

その他の気になる点

FoundationOne CDxでのTMB 10/MbとNCCオンコパネルのTMBは同じとみなしてよいのか。NCCオンコパネルのTMBは全領域の変異量やエクソン領域の変異量などわけて表示されるがどの数値を使うのかという問題もあります。今後、パネルの種類が増えたりリキッドでTMBを測定することが増えてくると検査パネル間の補正なども必要になるのかどうか、一体誰がそれを検証するのか(おそらくFoundation Medicineなどの検査会社やMSDなどの製薬企業はそこには出資しない)。

ちなみにTwitterでこのTMB高値に関するペムブロリズマブ承認に関連して長々と考察をされている人がいました。このツイートにぶら下がる一連のリプライも読み応えがあります。かなり長いので時間があるときにどうぞ。(→あまりにも長いのでtogetterでまとめました

平成のオンコロジストと令和の臨床腫瘍学の進歩

これはKEYNOTE-158とTMBの関係にとどまらず近年のがんゲノム医療全体に共通して言えることですが、我々平成時代のオンコロジストは「臨床試験のエビデンスは前向きRCTが必須、メタ解析で再現されれば尚良し」「PFSが良くてもOSが伸びなきゃチョットね〜。ハードエンドポイントが至高。ましてや奏効率だけで承認を取ろうなんて厚かましい!」という、ある意味科学的観点にどっしりと腰を据えた頑健な思考回路を養うようにしつけられてきました。これをきっちりと段階を踏んでこなすことが腫瘍内科の御作法だったので、平成時代にはエビデンスベースドながん薬物療法とは、すなわち目の前の患者の最大瞬間風速的な奏効率に惑わされずにその治療が真に予後を改善するのかという慎重で冷徹な視点を持つことと同義だったのです。

しかし、最近は明らかに流れが変わってきています。「しょせん単群試験のサブ解析だから…」と慎重な姿勢を示す平成のオンコロジストを尻目に、令和時代の臨床腫瘍学はNGSの解析パワーを武器とした疾患の細分化をゴリゴリに推し進めて、単群試験だろうがサブ解析だろうが主要評価項目が奏効率だろうが、良い成績を示したものは次々と承認される流れになってきています。もう「RCTをしないと…」と言っている平成の腫瘍内科医の考え方にこだわっていては治療開発のスピードについていけないことでしょう。

がんゲノムに基づく個別化治療は基本的に全ての症例が「希少がん」であり、そこには第1相試験は必要だが大規模RCTによる第3相試験を求めることが現実的ではなくなってくること、無数の「症例報告」を重ねてゆくことが現場の使命になってくることは、京都大学の武藤学先生が昨年のJSMOで話されていました。

実はこの平成のオンコロジストと令和のオンコロジストという言葉はぼくが自分で考え出したものではなく、名古屋大学の安藤雄一先生が2019年11月の講演会でお話されていたことの受け売りでもあります。平成の腫瘍内科の考え方では、異なる患者層を対象とした臨床試験と奏効率の比較をするなんてのはタブーだったのに、がん遺伝子パネル検査が普及するにつれてそういう治療開発のスピード感が重要視されてきているという話だったと思います。その中で、平成の腫瘍内科医たちは急激なルールの変化に戸惑いも感じているようです。好むと好まざるにかかわらず、世の中はそういう時代になってきているので、もう逆らっても変えようがありません。

平成のEBMの堅実さと令和のがんゲノム医療のスピード感を両立させるのは容易でなく、しかも治療開発する側は令和のスピード感でどんどん前に進んでゆきますから、あまり平成の腫瘍内科医のしきたりにこだわるのは現実的でないのかもしれません。


*1 https://oncologypro.esmo.org/meeting-resources/esmo-2019-congress/Association-of-tumor-mutational-burden-with-outcomes-in-patients-with-select-advanced-solid-tumors-treated-with-pembrolizumab-in-KEYNOTE-158
*2 https://www.practiceupdate.com/content/esmo-2019-keynote-119-suggests-activity-for-pembrolizumab-in-some-triple-negative-breast-cancer/90334
*3 https://www.onclive.com/view/high-tmb-metastatic-breast-cancer-responds-to-pembrolizumab-monotherapy
*4 https://www.cancernetwork.com/view/fda-grants-priority-review-pembrolizumab-monotherapy-tmb-high-tumors
*5 https://oncologypro.esmo.org/meeting-resources/esmo-2019-congress/Association-between-tissue-TMB-tTMB-and-clinical-outcomes-with-pembrolizumab-monotherapy-pembro-in-PD-L1-positive-advanced-NSCLC-in-the-KEYNOTE-010-and-042-trials
*6 ESMO news 2019 https://www.esmo.org/oncology-news/tTMB-Is-Not-Established-as-a-Marker-for-Pembrolizumab-Efficacy-in-NSCLC
*7 https://www.esmo.org/newsroom/press-office/mystic-immunotherapy-nsclc-rizvi#.XBZVmKU2O48.twitter