レ点腫瘍学ノート

2020-10-30

抗がん剤治療関連心筋障害の診療における心エコー図検査の手引

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Onco-Cardiologyという言葉を聞く機会が増えてきました。がん化学療法の心毒性が注目されるようになっています。腫瘍内科外来で心エコーをオーダーすることも増えてきましたが、2020年10月に抗がん剤治療関連心筋障害の診療における心エコー図検査の手引が改訂されています。

ガイドライン | 一般社団法人日本心エコー図学会
http://www.jse.gr.jp/contents/guideline/index.html

病態

アンスラサイクリンは酸化ストレスなどにより不可逆的に心筋障害を起こし、抗HER2療法やスニチニブ、イマチニブ、ソラフェニブなどのTKIは心筋機能障害による可逆的な心機能障害を来たすとされてきました。

以前は前者がType I、後者がType IIの心機能障害と定義されてきましたが*1、近年はType IIでも20%ほどが不可逆的で有り両者の心機能障害は明確には分けられないという考えが広まり、現在のASCOガイドラインではType IとType IIの心機能障害という表現はされていないようです。また免疫チェックポイント阻害剤による全く別の機序による心筋障害も見られるようになってきました。

バイオマーカー

トロポニンとBNP・NT-proBNPが心筋障害の早期発見マーカーとしてあげられることがあります。がん薬物療法中の測定タイミングや最適カットオフ値が未確定ですが海外のガイドラインでは推奨されている検査の要です。少なくとも治療開始前のBNPとトロポニン値を評価しておくことを推奨するという考えがあるようです。

心エコー

2005年のASE心腔定量ガイドラインではLVEF 55%というカットオフ値が用いられましたが、2015年に53%に改訂されたようです。またベースラインから10%の低下があるかどうかも重要です。

この手引きでは「ベースラインよりも10%ポイントを超えて低下し、かつLVEFが50%を下回る」ことをカットオフ値としています。すなわち57%→49%への低下は基準を満たしません。なお、左室壁運動は必ずしも一様に低下するわけではないことやLVEF自体に測定の誤差が避けられないことなどから、この基準値は変化しうると注釈されています。収縮機能の他に左室拡張能や右室機能・肺動脈圧の問題もあるので、適宜専門医への相談が必要です。

LVEFは計測誤差が大きいことから近年はGlobal longitudinal strain(GLS)という指標も注目されているようです。LVEFより感度が良く再現性が優れるということでASCOを含む海外のガイドラインでは使用が推奨されているようです。日本人ではGLSのカットオフ値は16〜19%ですが、この手引きでは正常下限を18%として16%未満を高リスク、16〜18%を境界域として提示されています。GLSが15%低下していればLVEFに変動がなくても心機能障害が起こっていると判断します。

フォロー頻度

アンスラサイクリン

治療前の心機能評価は必須。治療中は累積投与量が240mg/m2を越えた時点と500mg/m2を越えた時点、さらに治療終了時とその6ヶ月後・12ヶ月後となっています。AC療法なら4サイクルで240mg/m2です。

抗HER2療法

治療前の評価は必須。3ヶ月毎に評価し、また治療終了時も評価します。治療終了時にLVEF・GLSの低下がなければフォロー終了。

抗HER2療法以外の分子標的薬

各治療薬の適正使用ガイドに従う。治療終了時にLVEF・GLSの低下がなければフォロー終了。

ベバシズマブ やラムシルマブの投与前に心エコーをルーチンに行っている施設は少ないのではないかと思いますが、実際にはそうそう抗血管新生阻害薬による心不全は目にしないのでここまで求めるのは過剰診療のような印象も否めず…。

免疫チェックポイント阻害剤

治療開始時と治療終了時に測定となっています。治療終了時にLVEF・GLSの低下がなければフォロー終了。実際には治療開始前にルーチンに心エコーをしているわけではないような気もしますが・・・。

胸部に対する放射線治療

症状がなくても高リスクは照射5年後に心エコー、中低リスクは10年後に心エコー、以後は5年ごとを目安に心エコーとなっています。気の長い話だ。。。

基本的な内容といえば基本的ですが、実際にこれらの心毒性を有する薬剤を処方する医療者はこの内容(それほど分厚くはないです)を確認しておくほうが良さそうです。


*1 J Clin Oncol. 2005;23:2900-2.