レ点腫瘍学ノート

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エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院の要件の整理

がん拠点病院 がんゲノム

2023年12月1日付で厚生労働省から面白い資料が出てきました。「第5回がんゲノム医療中核拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」のプレゼン資料とされるものです。がんゲノム医療連携病院でエキスパートパネルが実施可能となることが示唆されています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36656.html

その中の資料1「エキスパートパネルの効率的かつ効果的な運用について」の20ページ目くらいに「連携病院でのエキスパートパネルの実施について」があります。がんゲノム医療連携病院で一定のレベルに達している医療機関では自施設でエキパネ解禁されそうな流れが出てきました。

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エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院に求められる要件

がんゲノム医療連携病院でエキスパートパネルが実施できるための具体的な要件は、

  1. 年間50件のパネル検査を実施
  2. 拠点エキパネの前に事前検討(院内エキパネ)を開催している
  3. エキパネ推奨治療を実施した症例が年3例以上
  4. 遺伝カウンセリング年20例
  5. 必要時に拠点エキパネに依頼できる体制がある

などが案として提示されていました。なお、この件数ですがどの基準で切るのか(1月〜12月?年度ごとに4月更新?毎年の現況報告書の通り7月更新?)は明記されていません。

各要件を見ていくと、昨年度の連携病院188施設のうち年50例実施できているのは69施設、推奨治療3例できているのは84施設、遺伝カウンセリング20例は126施設らしいです。年50件のパネル検査は「拠点病院」でも達成できていないところがある(ように見える)が、今年拠点から格下げになった所でしょうか?

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周りのがんゲノム医療連携病院を見てもアクティビティ高いところでないと満たせない、決して甘くはない条件ではありますが、この要件を満たせるがんゲノム医療連携病院にとっては魅力的です。がんゲノム医療連携病院の中にはがんゲノム医療拠点病院になれる実力を持ちながら、地域要件(同一医療圏にはがんゲノム医療拠点病院は1箇所のみ)のために涙を飲んだところもありますが、これでかなり動きが良くなることになります。

さて、がんゲノム医療連携病院にとってのメリットには以下のようなものが考えられます。

一方で、下記のようなデメリットもあります。

特に4階建になってしまうのを回避するために、がんゲノム医療中核拠点病院とがんゲノム医療連携病院の間にがんゲノム医療拠点病院を整備するときにこれをやればよかったのでは?という感想も若干抱きます。

2024年2月、具体的な要件が固まってくる

さて、このあとしばらく動きがありませんでしたが、2024年2月27日に「健発0801第18号 令和4年8月1日 がんゲノム医療中核拠点病院等の整備について」が一部改訂されました。なお、この通知をもって「がんゲノム医療中核拠点病院等の整備について」(平成29年12月25日付け健発 1225 第3号厚生労働省健康局長通知)は廃止されています。

https://www.mhlw.go.jp/content/001216103.pdf

「エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院」は中核拠点病院または拠点病院が指定する

この文書の改訂箇所をすべてチェックできたわけではありませんが、まず目にとまるのは3ページ目、Iの2の(5)の部分です。がんゲノム医療中核拠点病院がになうべき役割の1つに以下のような一文が書き加えられています。

5で定めるエキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院が、自施設でエキスパートパネルを実施する場合、適切に実施できるよう支援すること。

そして、この「5で定める〜」の部分を追ってゆくと、エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院は以下のように定義されています。

自施設でのエキスパートパネルの実施を希望するがんゲノム医療連携病院のうち、がんゲノム医療中核拠点病院又はがんゲノム医療拠点病院により指定される

がんゲノム医療中核拠点病院やがんゲノム医療拠点病院はに申請してが指定しますが、がんゲノム医療連携病院はこれまでも(国ではなく)紐付け対象となる中核拠点病院や拠点病院に申請して中核拠点病院や拠点病院が指定し傘下に置くという建てつけになっていました。自施設でエキスパートパネルが実施可能かどうかも、国ではなく紐付け対象となっている中核拠点病院や拠点病院が指定することになるようです。

ただし、エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院の場合はがんゲノム医療連携病院と違って中核拠点病院や拠点病院が全面的に面倒を見るだけではなく、VIの2の(2)にあるようにエキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院は指定した中核拠点病院または拠点病院が当該医療機関を所定の書類に記載して厚生労働大臣に届けるようですから、エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院はいちおう厚労省傘下にも置かれるようです(従来型のがんゲノム医療連携病院の場合はこの厚生労働大臣に届け出るステップが無い??)。

病理医の要件が若干異なる

また、このPDFの14ページまで読み進めると、Vに「エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院について」という項目が新設されています。エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院は、まず(通常型の)がんゲノム医療連携病院が満たすべき要件はすべて満たす必要がありますが、さらにいくつかの要件が追記されています。IVの(通常型の)がんゲノム医療連携病院が満たすべき要件と見比べてみますと、以下の部分が異なることが分かります。

その他の遺伝カウンセリングやデータ管理の部分は同じようですが、上記は明確に異なりますね。(通常型の)がんゲノム医療連携病院では病理部の要件は「病理学に関する専門的な知識及び技能を有する常勤の医師が配置されていること。」と書かれているので「病理専門医」を想定しているものと思われますが、エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院に求められているものは中核拠点病院に求められるものと同じ水準で、これは「分子病理専門医」を想定しているものと思われます(ただし複数人在籍を求められる中核拠点病院や拠点病院と違って1人でよい)。

(なお、国は明確な専門医資格を指定しているわけではなくてその水準を要求しているだけです。専門医資格は現時点ではあくまで私設団体の私設資格に過ぎないので国の要件にできないそうです。極論すれば、「専門的知識を有する」と自称するだけでも通用しそうな文面です。今後、日本専門医機構が専門医資格を発行する唯一の公的組織であるというコンセンサスが固まってくれば、ここにも明確に専門医資格を求めてくるかもしれませんが)

自己判断できない症例は中核拠点病院または拠点病院のエキスパートパネルに依頼できる

Vの3の(3)には「自施設で判断が難しい症例については、連携するがんゲノム医療中核拠点病院又はがんゲノム医療拠点病院にエキスパートパネルを依頼すること」との一文が明記されており、自施設のエキスパートパネルにおいて議論不可能な小児がん症例等については中核拠点病院や拠点病院のエキスパートパネルに依頼することができるようです。希少がんや、単に自施設にその領域の専門家がいない場合であっても中核拠点病院や拠点病院のエキスパートパネルに依頼することは可能ですし、場合によっては、治療選択肢が全く無さそうなものだけまず自施設内で処理し、治療候補がありそうなものは拠点病院のエキスパートパネルに依頼するというような運用で経験値を少しずつ積んでゆく運用を選ぶがんゲノム医療連携病院もあるかもしれません。

その他、確認しておくべき資料

以下の資料も一部が改訂されています。

エキスパートパネルの実施要件の詳細について

https://www.mhlw.go.jp/content/001216107.pdf
この文書は中身はほとんど変化がなさそうです。

また、こちらの文章は改訂されていませんがエキスパートパネルを自施設で開催する場合には重要な内容になるので再確認しておくことが大切です。

エキスパートパネルの実施要件について(健が発0303第1号 令和4年3月3日)

https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001173159.pdf

がんゲノム医療連携病院がエキスパートパネルを自施設開催するために満たすべき要件が列記されています。エキスパートパネルの構成員として下記のメンバーが必要です。

おそらく上から順に、がん薬物療法専門医臨床遺伝専門医認定遺伝カウンセラー病理専門医分子病理専門医を想定しているものと推測されますが、前述したように明確に専門医資格を有することが明文化されているわけではなくグレーゾーンです。

がん薬物療法や病理学のようにエキスパートパネル構成員が複数在籍することが求められる職種の場合は、3の項目に記載されているように、各職種で1人以上がリアルタイム参加することが求められています(同職種が複数名いれば毎回全員参加でなくてもよい)。

セキュリティが担保されていて画像でのコミュニケーションが可能ならオンラインでの参加も認められています(画像が必要なので、電話やチャットやメールのみは不可)。セキュリティが担保されたオンライン会議システムが具体的に何を指すか基準は明記されていませんが、がんゲノム医療が始まった2019年当初にセキュリティリスクが喧伝されたzoom(イーロンマスクがzoom利用を禁じたなどのニュースがありました)も、2020年4月のver5.0からは暗号化やデータが中国を経由する問題などが解消されており、かなりの水準のセキュリティが担保されていると言えそうです*1

医師要件は「常勤」と明記されているものが多いのですが、認定遺伝カウンセラーおよび分子病理専門医の項には「常勤」の縛りがありませんので、この項目は非常勤でもエキスパートパネル開催日に在籍してもらえれば要件はクリアできそうです。特に臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーを常勤で確保するのは容易ではありませんので、認定遺伝カウンセラーが常勤で属していない施設は前述のオンライン参加という手段も併用して非常勤の構成員がいる時間帯に合わせてエキスパートパネルを開催するという工夫が必要となります。

エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院であっても「エキスパートパネルの開催は必要としない要件」も従来と同じですので、「次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づく3学会合同がん診療ガイダンス改定第2.1版におけるエビデンスレベルにかかわらず、推奨する薬剤、治験等が無い場合」などは、メール回覧でエキスパートパネルを済ませることが可能です。

4月1日から運用開始となりそう

これらのエキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院でのエキスパートパネルは、噂では2024年4月1日から運用開始可能となりそうですが、国からの文書での通知はまだ厚労省のサイト上では確認できません。

このページの記事は可能なかぎり厚労省サイトの公式通知をソースとして正確な記述を行うように努めていますが、間違いがあった場合はお知らせください。


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*1 https://digital-shift.jp/flash_news/s_210405_2

更新日:2024-03-05 閲覧数:1029 views.